出典:講談社「ナニワ金融道」
序説
昨今、様々な漫画が発刊されています。
その中で「ワンピース」や「ドラゴンボール」などの商業的に大ヒットしたモンスターコミックもあれば、
一瞬、打ち上げ花火の様に「テレビ」「雑誌」に取り上げられて話題になって、いつの間にか忘れ去られる俄か商業コミックもあります。
ただ、どの分野でも歴史に残るいわゆる「名作」と言うものは存在します。
そんな中、徹底した「リアルな世の中」を描いた青木雄二著の「ナニワ金融道」はまぎれもなく漫画史上に残る名作と言っていいでしょう。
その内容は「欲望に渦巻く人間社会の実情」そのものであります。
「無知は罪なり」は有名な哲学者ソクラテスの言葉です。
「知らない」と言う事(ここではお金と法律の知識)が自分では気づかずに他人を傷つけていたり、
あるいは自らを貶(おとし)め、時には「地獄へと真っ逆さまに転落す事もある」と言う教訓を持って私たちに訴えます。
ちなみにコミックのタイトルである「ナニワ金融道」ですが、当初作者が考えて提出された原稿のタイトルは「踏み越えてしまった人々」だったそうです。
何となく内容は想像できますか?
それでは、まだ読まれてない方も既に読まれた方も、「ナニワ金融道」の魅力を共有していきたいと思います。
最後まで読んでくださいね。
どんな内容の本か
1990年から『モーニング』(講談社)にて連載されました。
単行本で全19巻、その他にも文庫版全10巻でも出版されています。
1992年講談社漫画賞、1998年手塚治虫文化賞マンガ優秀賞受賞を獲得しています。
あらすじ
主人公である「灰原達之」は普通の何処にでも居るサラリーマンです。
物語は灰原が務めていた会社が倒産し、新たに転職先として消費者金融である「帝国金融」に就職するところから始まります。
消費者金融に借りに来る中小企業の社長たちの「ダメダメ経営者ブリ」、
出典:講談社『ナニワ金融道』
ご祝儀詐欺に会って失ったお金をどうしても期日までに準備しなければならない被害者の差し迫った精神状態などをリアルに描きます。
またそんな社会的弱者に同情しつつも、ビジネスである限りは現実を直視し、敢て弱者を気丈にキリ捨てる主人公「灰原」の心の葛藤もリアルで非常に読みごたえがあります。
物語の中で灰原が町工場の社長の代わりにお金を受け取りに来た社員に「手形の裏書」をさせる場面があります。
手形の裏書とは、本来支払いをすべき人(手形の振出人)が支払うことができなくなった時に、裏書人が手形を所持する人に対して支払う義務が生じるというものです。
社員は「手形の裏書」の意味を分からないまま、言われるがままにサインしたが為に、その後借金を背負わされ、地獄へとたたき落されます。
その他、悪徳な先物取引業社に引っかかり、仕事も家庭も失う小学校の教頭先生、
不動産業を営む(実質は地上げ屋)ヤクザ風の人物が地元住民グループの大反対に合い、事業に失敗し夜逃げする話など
とにかく、ストーリー、登場人物の感情描写がリアルです。
夜逃げをした債務者の連帯保証人を追い込みに行く場面など、実際に経験が無い自分にとって「こうやって取り立てるのか」と怖いのと同時に関心してしまう所もあります。
癖のある様々な脇役の中で、唯一「普通」である、主人公「灰原」に読者は感情移入し、ストーリーに引き込まれていきます。
出典:講談社「ナニワ金融道」
作者「青木雄二」とは
出典:「青木雄二プロダクション/青木雄二物語」
作者の青木雄二氏が、代表作「ナニワ金融道」のおかげで「一生暮らせるだけのお金は稼いだ、後は遊んで暮らす」と告白した事は有名です。
工業高校を卒業後、神戸の鉄道会社に就職するも5年で退職、その後地元の役場職員となるが公務員が肌に合わず1年も経たずに辞めて大坂に移ります。
大阪ではビア・ホールでのアルバイトやパチンコ店の店員、キャバレーのボーイ等の水商売を中心に30種類以上の職を転々とします。
その中で一番楽だったのが公務員、肉体的に辛かったのがパチンコの店員、精神的に辛かったのは漫画家だと語っています。
その後、得意だった漫画を描き始め、「屋台」などの小ヒットを出しながらデザイン会社を立ち上げます。
最初は順調だったようですが、仕事が自分一人では回らなくなり、人を雇うようになってから資金繰りが悪化し、結局借金を背負い倒産してしまいます。
以上の様に、様々なアンダーグラウンドな職業を経験し、自ら会社を運営したことから、世の中の仕組みやお金の本質を知り尽くし、この漫画は生まれたと言えます。
マルクスの「資本論」とドストエフスキーの「罪と罰」、「この2冊さえ読めば世の中の仕組みが分かる」と言い、
さらに「この2冊さえ読めば他の本は読む必要が無い」等とうそぶき、その思想は極端な左翼思想でした。
彼の書いた本には、一貫して社会的弱者である労働者階級から資本家への反骨精神に溢れています。
弱者である一般人は「兎にも角にも世の中の仕組みを知って、世間にはびこるウソに騙されず、強かに生きなあかん!」と訴えていました。
50回以上の見合いの末、50歳で19歳年下の女性と行きつけの喫茶店で知り合い結婚します。
55歳で男児をもうけています。
余生を自由気ままに過ごす予定だったはずが、引退後も数多くの書籍を執筆したり講演活動など、多忙な晩年を過ごしました。
2003年、肺癌のため58歳で死去。早すぎる死でした。
どんな人にお薦めか
とにかく内容がリアルで結構エグイ話もあります。
例えば、恋人の借金のカタにハメられ、ソープランドに売り飛ばされる女性とか・・・
なので、中学生以下や世間を知らない純粋な女性などはあまりのリアルさに気分が悪くなるかもしれません。
出典:講談社「ナニワ金融道」
逆に、これから社会人になる大学生や特に金融関係の職業に就こうと考えている人はぜひ事前に読んでおく事をおお薦めします。
さらに、これから独立を考えている人、事業を立ち上げようと考えている人にお薦めです。
この漫画を読んで、登場する人物の様な「過ちを」を起こさない様に、反面教師的なスタンスで読むといいでしょう。
私は20代後半、社会人になってから読んだのですが、出来たらもっと早くに読んでおきたかったと思いました。
逆に一生、会社員で「可もなく不可もなく生きていきたい」と考える人は読んでもあまり意味が無いかもしれません。
その他に、「国民は国家の為に尽くす事が尊い生き方だ」など、極端な右翼的な思想の人は違和感を抱くかもしれません。
この漫画から何が得られるか
出典:パチンコ無間道(むげんどう) 青木プロダクション
この漫画は徹底したリアルな資本主義社会を描いた作品です。
そこには綺麗事など一切ありません。
資本主義社会の世界ではお金が全てです。
「人の命」でさえお金で量られます。
しかし、世の中に革命でも起こらない限り、私たちは資本主義社会に生きなければなりません。
権力者たちは「お金」と「法律」、言い換えると「武器」と「懲罰」によって一般国民を支配しています。
それらの知識と使い方を知らないまま、勉強もしないでいると、いつまでも弱者に留まり、権力者たちに支配され続けます。
この漫画を読むと、そのことに気づかされ、詐欺など簡単に上手い話に引っかからない様になります。
お金の知識を知る事により、知らない内に手形の裏書をしてしまったり、借金の連帯保証人になってしまったりする事が無くなります。
私たち日本人は「法の下に平等」と小さい時から学校で教えられ、何か安全な社会に生きている様に思います。
これは間違ってはいませんが、正しい認識ではありません。
真実は「法を知って、それを活用する為のお金を持っている人の下に平等」であると言う事です。
この漫画は以上様なマインドを得られ、資本主義社会を強かに生きる方向へとを導いてくれます。
まとめ
「ナニワ金融道」とは「世の中の仕組み」や「お金」の知識が無いが為に、借金をして挙句の果てには人生を踏み外してしまう人間模様をリアルなストーリーで描かれています。
作者である「青木雄二」氏は様々な職業を経験する事で世の中の仕組みを知り、また自ら会社を立ち上げ、図らずとも倒産する事でお金の知識をより深めていきます。
この漫画はこれから社会人になる人やサラリーマンから独立して事業を立ち上げようと思っている人には大変有益です。
資本主義社会において賢く生きていくためには「法律」や「お金」の知識を知る必要があります。
この漫画は、それらを知って世の中を強かに生きていくための指針となる良書です。
編集後記
作者である「青木雄二」氏は権力者が弱者を食い物にしている資本主義社会を彼流の表現で痛烈に批判しています。
しかし、彼自身は億万長者であり、資本主義社会の勝ち組に位置します。
実際、彼の批判する資本主義社会の恩恵を彼自身が一番享受しているとも取れます。
そこが、私自身興味あるところで、世界の歴史を見ても世の中の仕組みを変える革命を指導した人物は意外と裕福な家庭に生まれたケースが多いのです。
日本では江戸幕府を倒す事に尽力した坂本龍馬は土佐の裕福な商人の息子でした。
カストロ共にキューバの革命を成功に導いたチェ・ゲバラはアルゼンチンの裕福な家庭に生れ、自身医師の免許を持つエリートでした。
彼らは成功して世の中の仕組みを知ったからこそ、言わずには(行わずには)居られなかったのではないでしょうか、
天国から青木雄二氏の声が聞こえて来そうです。
「世の中、ゆうても銭や!強かに生きなあかんで!」