序説
※ この記事は2019年に書いたものを、2026年10月に全面的に見直しました。働き方改革のその後と、最新の制度を反映しています。
「会社を辞めずに、自分の仕事を始めたい」。そう考えたとき、よく出てくる言葉が企業内起業です。
結論から言うと、企業内起業とは、会社に勤めたまま、会社の人・お金・ノウハウを使って、新しい事業を始めることです。「社内起業」「社内ベンチャー」「イントレプレナー(社内起業家)」とも呼ばれます。ただ、この制度がある会社は限られます。そこでこの記事では、会社員が「会社に頼りきらず」働くための3つの形に広げて、整理します。
あわせて、2019年に政府が進めた「働き方改革」が、その後どうなったのかも、振り返ります。当時の私は、「働き方改革は、労働者のための改革ではない」と書きました。7年たった今、何が変わって、何が変わらなかったのでしょうか。
それでは最後まで読んでくださいね。
企業内起業とは?
企業内起業は、新規事業を、会社の中で、会社の資源を使って始める方法です。
- 会社の人・お金・設備・販売の仕組みを使える(ゼロから集めなくていい)
- 失敗しても、会社員の身分は残ることが多い(個人で起業するより、リスクが小さい)
- 一方、会社の承認が必要で、時間がかかる。既存の事業とぶつかる案は、通りにくい
企業が、組織の硬直化を防ぎ、新しい発想を生み出す人材を育てるために、「社内ベンチャー制度」や「新規事業提案制度」を設ける例があります。ただし、最新の導入率を示す統計は、確認できませんでした。大企業の制度が中心で、中小企業では、制度がないことも多いです。
会社員が「会社に頼りきらず」働く3つの形
制度がなくても、会社員が、自分の仕事を持つ方法はあります。大きく3つに分けられます。
| 形 | 内容 | 向いている人 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ① 社内起業 | 会社の制度や提案で、新規事業を担当する | 今の会社が好きで、制度がある | 制度がない会社も多い。承認に時間がかかる |
| ② 副業 | 会社の外で、小さく仕事を始める | まず試したい人 | 会社の就業規則の確認が必要 |
| ③ 契約を変える | 会社と、雇用から業務委託(個人事業主)に変える | 会社と交渉できる立場の人 | 保険や労災の扱いが変わる。実態によっては、雇用とみなされることがある |
社内起業:制度があるなら、まず調べる
会社に「新規事業提案制度」や「社内公募」があるか、確認してみましょう。社内の掲示板や、人事の案内に出ていることがあります。制度があれば、会社のお金で、新しい仕事に挑戦できる、いちばんリスクの小さい形です。
副業:会社の外で、小さく試す
副業は、会社の外で、自分のスキルが通用するかを、小さく試せる方法です。
パーソル総合研究所の調査(少し前のものです)では、企業の副業容認率は60.9%でした。一方で、実際に副業をしている正社員は7.0%にとどまっています。始める前に、会社の就業規則を確認しましょう。また、副業の所得が年間20万円以下なら、所得税の確定申告は原則不要ですが、住民税の申告は必要です。
くわしくは「サラリーマンを続ける?脱サラして起業する?後悔しない判断の順番と、辞める前の確認リスト」で書いています。
契約を変える:雇用から業務委託へ
「会社は辞めずに、正社員から、個人事業主(業務委託)に切り替えたい」という選択もあります。2019年当時、私が考えたのも、この形でした。ただし、注意点が3つあります。
- 保険の扱いが変わる:雇用でなくなると、健康保険は国民健康保険、年金は国民年金になります。雇用保険(失業手当)は対象外です。労災保険は、一定の条件で「特別加入」できる制度があります
- 実態が雇用なら、雇用とみなされることがある:契約が業務委託でも、会社の指示で時間や場所を縛られるなど、実態が雇用に近いと、労働者とみなされることがあります
- フリーランス保護の法律がある:2024年11月から、「フリーランス・事業者間取引適正化等法」が施行されました。発注する会社は、取引条件を書面やメールで明示し、成果物を受け取ってから原則60日以内に報酬を支払うことなどが義務になっています
契約を変えるときは、条件を書面で確認し、必要なら、社会保険労務士などに相談してください。
働き方改革は、何が変わったのか
2019年から順次始まった「働き方改革関連法」で、実際に変わった主な点を整理します。
| 内容 | 変わったこと | 施行時期 |
|---|---|---|
| 残業時間の上限 | 原則、月45時間・年360時間まで。特別な事情があっても、年720時間以内などの上限がある | 大企業は2019年4月、中小企業は2020年4月 |
| 年5日の有給取得 | 年10日以上の有給がある社員に、会社は、年5日を取得させる義務がある | 2019年4月(すべての会社) |
| 同一労働同一賃金 | 正社員と非正規社員の間の、不合理な待遇の差が禁止された | 大企業は2020年4月、中小企業は2021年4月 |
運転業務、建設業、医師などは、上限規制の適用が遅れた例外もあります。
その後の状況について、厚生労働省の2025年12月の資料では、週60時間以上の長時間労働は減っている一方で、過労死等の件数は増えていると整理されています(資料の原文は確認できていません)。「長時間労働は減った」と言い切れるほど、単純ではないようです。
労働基準法の、さらなる見直し(連続勤務の上限、勤務間インターバルなど)も議論されていますが、報道によると、2026年の国会への法案提出は見送られました。議論は続いており、内容はまだ確定していません。
働き方改革の本当の狙いは、何か(私の見方)
ここからは、事実ではなく、私の見方です。
働き方改革の本当の狙いは、私たちの労働環境の改善を目的とした「暖かいお上の温情」なんかではありません。これから日本が直面する、少子高齢化に伴う「労働生産性の低下」や「財政の逼迫」に対応した、政府の狡猾かつ辛辣なサラリーマン収奪制度。私は、そう見ています。
一見、働き方が自由になったように見えて、企業(雇用主)には、「能力の無い人材」を排除する意識が、ますます強くなります。より高い労働生産性と、経済効率が、シビアに求められます。
平たく言えば、こういう制度です。
「働き方はあなたの自由に選べますが、会社も国も、あなたの将来に責任は持ちませんよ。死ぬまでしっかり働いて、自分の老後資金は自分で稼いでね!」
もちろん、法律には、労働者を守るルール(残業の上限、有給の取得義務、待遇差の禁止)も増えました。その点は、事実として認めます。それでも、「自由」と引き換えに、将来の責任が、国や会社から、個人に移されているという私の見方は、いまも変わっていません。
2019年の私の予想:7年後の答え合わせ
2019年の記事で、私は、今後の法改正について、いくつか予想を書きました。7年たって、確かめてみます。
| 2019年の予想 | 実際 |
|---|---|
| 定年制の廃止 | 廃止は進んでいません。65歳までの雇用確保が義務になり(2025年4月から全面的に)、70歳までは努力義務(2021年4月)。定年を廃止する会社は、まだ少数派です |
| 年金受け取り自由制度(貯えのある人は、年金を受け取らなくていい) | 2022年4月から、年金の受け取りを、75歳まで遅らせられるようになりました(繰り下げ受給)。くわしくは「年金の繰り下げ受給は得?損益分岐点とデメリット、何歳から受け取るかの考え方」 |
| レイオフ(解雇)の合法化 | 解雇のルールは、基本的に変わっていません。解雇が自由になったわけではありません |
予想は、当たったものも、外れたものもあります。ただ、「会社も国も、あなたの将来の生活に、最後まで責任を持ってくれるわけではない」という点は、むしろ、はっきりしてきたと私は考えます。年金は今より減る見通しですし、再雇用で働けても、給料は大きく下がるのが現実です(「老後が不安な5つの理由と、不安を小さくする順番|お金・年金・介護・住まい・孤独」)。
働き方改革を、自分の味方にする3つのステップ
制度が変わっても、自分の働き方は、自分で決めるしかありません。次の3ステップを、おすすめします。
自分のスキルを、書き出す
これまでの経験を、書き出してみてください。「誰とでも仲良くなれる」「社内の揉め事をなだめるのが得意」といったことも、立派なビジネススキルになります。自分では気づかない強みは、第三者に見つけてもらうほうが、早いです。信頼できる同僚や、友人に聞いてみましょう。
会社の制度を、調べる
- 新規事業提案制度、社内公募はあるか
- 副業は認められているか(就業規則)
- 在宅勤務や、時差出勤の制度はあるか
小さく試す
大きく動く前に、小さく試します。副業で、月に数千円でも、自分のスキルでお金を得る経験は、大きな自信になります。
まとめ
- 企業内起業とは、会社に勤めたまま、会社の資源を使って、新規事業を始めること。ただし、制度のある会社は限られる
- 会社員が、会社に頼りきらず働く形は、①社内起業、②副業、③契約を変える(業務委託)の3つ
- 働き方改革で、残業の上限、年5日の有給取得、待遇差の禁止が、法律になった。長時間労働は減っているが、過労死等の件数は増えているという整理もあり、課題は残る
- 2019年の私の予想のうち、年金の受け取り自由(繰り下げ)は、ほぼ実現。定年廃止、解雇の合法化は、進んでいない
- 自分の働き方は、スキルの棚卸し、会社の制度の確認、小さく試すの順に、自分で決める
編集後記
この記事を最初に書いた2019年当時、私は、過去に数社を転職し、数年前に大きな挫折を経験したことから、「これからは、絶対に会社に頼らず生きる」と決めていました。そして、現在勤めている会社に、「正社員ではなく、個人事業主として、業務委託・請負として働きたい」と提案しました。「辞める」ではなく、今のスキルを生かしながら、会社に縛られず自由に働く、という選択でした。
今回、制度の数字は最新のものに入れ替え、当時の予想は、7年後の答え合わせとして書き直しました。「政府の狡猾かつ辛辣なサラリーマン収奪制度」という私の見方は、いまも変えていません。ただ、見方と事実は分けて書き、労働者を守るルールが増えた面も、事実として書いています。
なお、この記事は一般的な情報をまとめたもので、個別の契約・保険・税金のことは、会社の人事、社会保険労務士、税理士、労働基準監督署などで確認してください。
本記事は検証記録であり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
出典
- 厚生労働省「働き方改革関連法に関するハンドブック」(時間外労働の上限規制、年5日の年次有給休暇の取得義務)
- 同一労働同一賃金(パートタイム・有期雇用労働法):大企業2020年4月、中小企業2021年4月施行
- 公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省「フリーランス・事業者間取引適正化等法」(2024年11月1日施行)
- 厚生労働省「令和7年 高年齢者雇用状況等報告」(70歳までの就業確保、65歳までの雇用確保)
- パーソル総合研究所の副業に関する調査(企業の副業容認率・正社員の副業実施率)
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