序説
まず、以下の言葉を聞いて率直な感想を教えてください。
いいですか?いきますよ!
「パンダを想像しないでください。」
いかがですか?
一瞬でもパンダを想像せずにいられましたか?
まず、無理でしょう。
殆どの人は、あの白と黒の愛らしいパンダの姿がリアルに想像されたのではないですか?
理屈ではパンダを想像してはいけない事は分かっていても、人間の脳の中ではどのような事が起きているのでしょうか、
一旦、脳の中で「パンダ」の存在を肯定しておいて、それから「想像しない」という否定の作業へと移行しているのです。
脳は俄かに否定語を理解する事は出来ずに、一旦肯定語に置き変える作業をします。
人は否定語で指示されるとどうなるのか
あなたは会社の社長で、毎晩大阪のミナミのキャバクラで遊んでいたとします。
専属ドライバーに「いつものミナミの店に行ってくれ」と言えば迷うことなく馴染みのいつもの店まで連れて行ってくれます。
しかし今日、あなたは少し疲れています。
たまには静かなバーでゆっくり飲みたいと思っていました。
そこであなたは「いつものミナミの店じゃないところに行ってくれ」と言ったとします。
すると、ドライバーの脳の中ではどのような思考回路になっているでしょうか?
ドライバーまず、「いつも行くミナミのキャバクラ」の絵が浮かびます。
そしてそこから、文章の内容を取り入れようとします。
つまり「最初に絵が浮かんだミナミのキャバクラではない所」を探し出します。
そしてドライバーが導き出した答えは、キタのキャバクラに連れって行ってしまったのです。
脳は否定語で指示されると、過去の自分の記憶から答えを導きだそうとします。
それではあなたはどの様に指示を出せば良かったのでしょうか?
否定語を使うのではなくて、肯定語で指示をだします。
「ゆっくりと静かに飲めるバーに行ってくれ」と言う具合です。
否定語が及ぼす効果を検証した実験
小学生低学年の子供に、お茶がなみなみ入ったコップの載ったお盆を運んでもらいます。
そこで2パターンで声を掛けました。
①こぼさない様に運んでね
②しっかりと持って運んでね
すると結果、①の声掛けをした子供は50%の確率でこぼしてしまい、②の声掛けをした子供は20%しかお茶をこぼさなかったそうです。
①の「こぼさないように運んでね」と声をかけられた子供の脳の中では、まず水をこぼしている自分の姿を思い浮かべる作業をします。
後から、言葉で打ち消しても最初に思い浮かべたイメージを完全に消去する事は出来ません。
この実験からも分かる様に人は脳でイメージした事を無意識のうちに行動してしまうのです。
と言う事は、人に指示を出す場合は、②のようにやってほしい行動を明確にイメージできるような表現を使って指示を出すのが正解なのです。
結論を肯定語で言い切る
スポーツの世界でも、ビジネスの世界でも、選手に対しあるいは部下に対し的確に指示を出す場合は、最後にどう言い切るかが重要なポイントになります。
意味は同じでも、どう言い切るかで受け取る側の思考回路は全く逆の働きをします。
例を挙げます
野球で剛速球が武器のピッチャーが居たとします。
バッターに対し高めの球に手を出さないように指示を出したい時、「高めの球には手を出すな!」と言ってしまいがちです。
しかし、これを聞いたバッターは頭で意味は理解していても、高めに来る球を意識してしまいます。結果、高めのボールに手を出してしまいます。
では、この時どのように指示を出せば良いか、肯定語で言い切れば良いのです。
すなわち、「低めの球をねらっていけ!」と言う具合です。
「○○するな」ではなく、「○○しなさい」と指示する事、このような言葉の投げかけが指導者には必要なのです。
ビジネスの世界でも肯定語で言い切ると成功できる
上司が部下に対し、あるいは親が子供に対して「どうして出来ないの?」とい言葉を発してしまう事はないでしょうか?
これもマイナスの思考を引き出す否定語の一種になります。
ここまで読んで頂いたあなたは、もうお分かりだと思いますが、言葉を否定語で言い切った場合、受け取った側は出来ない自分をイメージしてしまいます。
この場合は「どうしたら出来るようになる?」と投げかけるのが正解です。
同じ意味の言葉でも、言い方ひとつで聞き手に与える影響は180度違う結果をもたらします。
考えたら怖い事ですね。
普段、気付かずに使っている言葉は、実は自分の意図とは全く逆の効果をもたらしている可能性があると言う事です。
もちろん、自分に言い聞かす場合も同じです。
「こんな上司になりたくない」と言う思考より「こんな上司になりたい」と思う方が良いに決まってます。
あなたの周りに理想とする素敵な上司や先輩はいますか?
そんな人と一緒に仕事をしたいものですね。